Fahrenheit -華氏-
言いづらそうに目を細めると、瑠華は
「え!?」とあからさまに固まった。
それにはこっちが「え!?」だ。
割と小さなことに動じない瑠華が、こんなことで驚いたことにびっくり。
「ま、まさか瑠華ちゃん……裕二のこと気になってった―――とか…?」
そんなことありえないと分かっていても、つい不安な気持ちが口から出る。
すると瑠華はあからさまに表情を歪めた。
「まさか」
その一言にほっと安心。
じゃぁ何で驚いてるのよ。
「何で木下リーダーは麻野さんなんでしょう」と難解な謎に挑むように眉を寄せ、瑠華は考え込んだ。
「何でって…う~ん…何でだろ。俺から言わせると裕二は何で綾子を選んだのか謎だけどな」
「素敵な人じゃないですか。木下リーダー」
「え゛!」
「あんなに綺麗でスタイルも良くて、仕事も出来る人…ホントに素敵ですよ」
瑠華はほぅと吐息をついた。
ちょ、ちょっと待て!その目は何!?
まるで恋する視線じゃない!!
俺だってそんなあっつい視線で見られたことないよ!
―――って言ってて虚しい。
がくりとうな垂れていると、瑠華が俺を覗き込んできた。
「勘違いしないでください。あたしにそのような性癖はありませんから。木下リーダーは単なる憧れです」
無表情に言うと、彼女は違う棚に足を向けた。
いや…憧れってもねぇ。あんなオトコ女憧れにするなよ。あいつはああ見えて中身ホントに男なんだからな!
そんなことを考えがえならも、「啓、見て」とこっちこっちと手招きされると、シッポを振って駆けて行く。
まるで犬だな。俺……
「リンゴ味のワインですって」
楽しそうに笑う瑠華を見ると、俺、犬でもいいやって気になる。