Fahrenheit -華氏-


左右に並ぶ長いベンチ椅子。


天井は思った以上に高く、天使の壁画が描かれていた。


中央には立派な祭壇があり、カサブランカの花束が飾られている。


その向こう側に色とりどりのステンドグラス。


そしてその前には聖母マリアの像が恭しく飾ってある。


「………素敵……」


瑠華がぽつりと漏らし、恍惚の表情で一歩前に踏み出た。


俺も正直ここまで立派なものだと思っていなかったから驚きだ。


瑠華が前に歩き出そうとするのを俺は止めた。


「待って」


両肩に手を置くと、上品なボルドーの色合いのカーディガンをそっと脱がす。


「な!何やってるんですか!!こんなところで」


瑠華がきっと俺を睨む。


「さすがに俺もここでことに及びませんって」


もしそうだとしたら、俺どんだけ野獣よ。


むき出しになった白い腕にはバレンタインのタトゥーが刻まれていたけど、俺がそれを見ても心が動揺したり、嫉妬したりすることはなかった。


タトゥーのある場所にそっと口付けを落とすと、瑠華はびっくりしたように目を開けた。


何でかな……


余裕とかじゃないけど、彼女の悲しい過去や辛い現実を全て受け止めれる気がしたんだ。





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