Fahrenheit -華氏-
瑠華のカーディガンを腕から抜き取ると、中は白いベアトップ一枚だ。こうしてみると、一枚の白いワンピースを着ているように見えた。
まるでウエディングドレスだ。
カーディガンを椅子の上に置いて、俺は持ってきた紙袋から中身を取り出した。
瑠華は俺の行動を黙って見ている。
そして俺が取り出したそれを見て、目を開いた。
「これ………」
瑠華が俺の手の中にあるものにそっと手を触れた。
「イギリスから届いたサンプル。TUBAKIウエディングの香坂さんに届けようと思ってたところなんだ」
繊細な刺繍を施されたベールはまさに一点もの。
天女の羽衣のように頼りなげで、それでいて繊細なガラス細工のように美しかった。
「勝手に持ってきちゃっていいんですか?」
瑠華がちょっと顎を引いた。
「大丈夫だろ。ちょっと借りるだけだから」
そう言って俺は瑠華の頭にそのベールをそっと被せた。
香坂さんの説明によると、これはマリアベールと言うらしい。
聖母マリアが被っていたベールを象ったことからその名がついたらしい。
桐島の結婚式でマリちゃんが被っていたのとはまた違うタイプのベール。
俺はベールに何種類もあるなんて知らなかった。
丈は瑠華の腰よりちょっと下辺りで、引きずるように長かったマリちゃんのとまた異なる。
ベールの端には繊細かつ豪華な刺繍が施され、少し黄色みの強いホワイトは瑠華の繊細な肌を際立たせているように見えた。
「ん。似合う」
満足そうに頷いて、俺は瑠華の腕を引いた。