Fahrenheit -華氏-
「あのシーンはお気に入りで……こことは違う大きな大きな大聖堂で結婚式を挙げたマリアに憧れました」
俺もそのシーンは印象的だ。
引きずるような長いベール姿で、若き日のジュリー・アンドリュースがゆっくりとバージンロードを進む。
その先にはクリストファー・プラマー演じるトラップ大佐が、彼女の登場を微笑みながら待ち受けている。
感動的なシーンだ。
昔は、結婚の意味を漠然としか捉えてなかった。
でも今は違う。
俺にとってそれは最高の幸せであり、二人のスタートでもあるんだ。
俺は瑠華と二人で新しい人生をスタートさせたい。
「一緒に……」
言いかけて、瑠華は俺をゆっくりと見つめた。
「隣り合って映画を見たあなたなら、分かるかと」
俺は目を開いた。
開いた視界一杯に瑠華の綺麗な顔が映っている。
瑠華の顔には無表情が浮かんでいたが、大きな目が過去を懐かしむように穏やかで柔らかい光を湛えていた。
「やっぱり―――
あの女の子は君だったのか」