Fahrenheit -華氏-
愛車BMWに乗り込んで、車を走らせること15分。
携帯が鳴って、俺はそれを手にした。
着信:木下 綾子(キノシタ アヤコ)
となっている。
げ
俺は顔を蒼白にさせた。
出るつもりはなかったけど、電話はしつこく鳴り続ける。
車内中に無機質な呼び出し音が鳴り響き、耳が痛い。
「ったく、しつこい!」
ぶつぶつ言いながらも、何度目かのコールで俺は恐る恐る電話に出た。
「……はい」
『啓人ーーー!!今どこにいるのよ!?』
綾子の声が携帯電話を通して俺の耳がびりびり言ってる。
「どこって、中目黒?」
俺は交差点の信号を見た。今は赤だ。
『中目黒って……!あんた会長とのお約束すっぽかして何してんの!?』
「何ってナニ?」
俺は曖昧に笑った。
『もぅヤダ!!お前なんて死んじまえっ!』
電話の向こうで綾子が怒鳴った。
木下 綾子は俺と同じ歳で秘書課の長でもある。
ちなみに“会長”ってのは俺の親父のことね。
26歳にして、世界中を飛びまわる親父の敏腕な秘書を勤めているからかなりのやり手だ。
だけど、綾子のことは女とは見れない。
性欲も感じない。
まぁ気の合う(?)男友達みたいなもんだ。