Fahrenheit -華氏-
レジで会計をしているときに、
「佐々木、どうする?あれじゃ電車で帰れねぇよな」
「俺タクシーで送ってくよ。五反田だろ?ついでだからお前も乗ってけば?」
裕二が言い出した。
「俺は歩いて帰るよ。近くだから」と桐島。
「あれ?お前東北沢じゃなかったっけ?歩いて帰れる距離じゃねぇだろ…」と言いかけて、
「あ、そういうこと…。嫁さんちね」
「まだ嫁じゃないよ」と桐島は照れ笑いを浮かべた。
おーおー、幸せそうな顔しやがって。
「柏木さんは?家どこ?良かったら一緒に乗ってかない?」
会計を済ませて財布をポケットにしまいながら俺は聞いた。
勘違いされては困るが、送っていくのを口実に家にあがろうとか、ストーカーをしようってわけじゃない。
断じて……
「六本木です」
柏木さんはさらりと言った。
「へえ…いいとこ住んでんね」
あの辺はお洒落だけど、物件がバカ高いんだ。
まさか独り暮らし……てわけじゃないよなぁ。
「マンション?独り暮らし?」
裕二が聞いた。ってか裕二!さりげにチェックしてんなよ!
「ええ。両親はまだアメリカですので。私一人です」
「マンション?ま…まさか、分譲?」
俺も恐る恐る…何気なく聞いた。
「ええ、分譲マンションです。賃貸は何かと面倒だったので。私も日本に居続ける気でいますので思い切って」
!?
思い切りすぎだろ。
24で、六本木のマンションに独り暮らし……
どんなセレブなんだよ!!