Fahrenheit -華氏-
■Discrepancy(矛盾)
「ありゃ男で痛い目を見たとみえるな」
走り出して5分程、肘を突いて窓の外を眺めていた裕二が唐突に言い出した。
俺と裕二の間では挟まれるようにして、佐々木が首を揺らしてる。
「あ?」俺は怪訝そうに聞いた。
「柏木さんだよ。なんかそんな感じしない?」
窓の外に目を向けていた裕二がゆっくりと俺の方を見た。
「ああ……、まぁ…どうなんだろね?」
実のところ俺もそんな気がしたんだ。
「妻子持ちと不倫でもしたんじゃないか?」
「どうしてそう思うんだよ」
「子供嫌いって言ってたじゃねぇか。柏木さんは本気で好きだったけど、相手の男が子供好きで家庭を捨てられなくて、泣く泣く別れた。そんな感じじゃね?」
「……まぁその仮説が妥当だよな。でも金持が嫌いってどういう理由だよ」
俺はため息をついて裕二を見た。
「手切れ金じゃね?相手が金持ちだったんだよ。きっと…。だって、24で六本木のマンション一人で住めるか??その金があったからじゃね?」
「“あった”じゃ、説得力ねぇよ。お前六本木のマンション買うのにどんだけ金がかかると思ってんの?並大抵の額じゃねぇよ」
俺だって給料は悪くないけど、それでも六本木にマンションを買う程まではさすがにない。
いくら役職付きだからって、どこから金が湧いてくるってんだよ。
「ありゃ現在進行形だ。パトロンでもいるのかな?」
ありえない発想だったけど、つい口に出た。