Fahrenheit -華氏-
「何か……男で痛い目見たって分かってんのに、これ以上俺らが近づいたら、また柏木さん傷つくじゃん?
何かそれって可哀想…」
俺は前に向き直って、ため息とも吐息とも言える小さな息を吐いた。
「何だよ、可哀想って。お前らしくない。んじゃ、降りるか?」
裕二が乾いた声で笑い声を上げた。
「試合不戦勝だ。柏木さんはゆっくり俺がイタダクぜ」
俺は思わず裕二を睨み上げた。
「誰がっ!降りるって!?お前には負けねぇよっ」
「あ、そう?頑張ってね~」
裕二はニヤニヤ笑って、手を振った。
あーあ……
可哀想と思う反面、柏木さんを手に入れたいと思う俺。
どんなに冷たくあしらわれようと、まるで相手にされてないって分かっていようと。
彼女を追いかけたくなる。
俺も大概矛盾してるよな―――