Fahrenheit -華氏-
イーっと、歯をむき出して裕二を威嚇していると、スーツのポケットで携帯が震えた。
携帯を開くと、
メール受信:紫利(ユカリ)さん
となっていた。
メールの文面を見ると、俺は目を開いた。
慌てて、前のめりになると、
「すみません。降ろしてください!」と運転手に早口に告げた。
タクシーがキキッとブレーキ音を軋ませ、路肩に停まる。
眠っていた佐々木の体がちょっと揺れ、はっと目を覚ました。
「どうしたんだよ?」
裕二が怪訝そうに軽く俺を睨んだ。
「悪り。俺用が出来た。そいうことで、ここでサヨナラ」
裕二はちょっと目を細めると、「女か」と言って「良くやるよ」という風に呆れかえっているのが分かった。
「何とでも言え。今日から週末までは柏木さんのことは一時休戦ってことで~」
俺はタクシーからさっと降り立つと、いししと笑って手を振った。
「使い込みすぎて、枯れるなよ」
とありがた~い、忠告を頂いて、ドアがバンッと閉まる。
「うっせ!死ねっ!!」
俺は走り去るタクシーに向かって怒鳴り声を上げた。