Fahrenheit -華氏-
紫利さんとベッドでまどろんで、もう一戦交えると、俺はホテルでシャワーを浴びて眠ることなく明け方自分のマンションに帰った。
そのままホテルに泊まっていってもいいのだけど、俺は誰か他人が横にいられると眠れない性質なのだ。
見た目に寄らず繊細だな、なんて裕二にバカにされたけど、どこでもいつでも爆睡できるあいつと一緒にして欲しくない。
昨日の酒が抜け切っていないのと、睡眠不足で体がフラフラしていた。
マンションのリビングに入ると、俺は上着を放り出して、ソファに転がった。
まるで死んだ蛙のように両手両脚を投げ出し、目を閉じる。
すぐそこまでやってきた睡魔は、俺を簡単に眠りに誘う。
うとうと……としかけたところで。
ピピピピ……
会社の携帯が鳴り響いた。
ほとんど反射的に携帯を手に取ると、通話ボタンを押した。
「はい、神流グループ㈱本社外資物流管理部、神流です」
長ったらしい名称だが、一週間も使えば慣れてくるものだ。
噛まずに言えた。
『大津食品産業の上島です。お世話になっております。朝早くから申し訳ございません』
大津食品産業は俺が物流管理部にいるとき、二三取引のあった業者だ。
海外との取引もある会社で、立ち上げの際早々に取引の話しを持ちかけてきた。
一度本社で打合せをして、中国間の業者と取引きも勧めている最中だ。
「……ああ、どうも、お世話になっております」
『実は……』
上島さんは申し訳なさそうに話を切り出した。