Fahrenheit -華氏-
「啓人。あんた噂になってるわよ~」
久しぶりに秘書課の綾子と裕二の同期三人で、ダーツバーに飲みにきた
色の綺麗なカクテルを飲みながら綾子は俺を指差すと、口を開いたのだ。
「え、噂って?」
「柏木さんとデキてるって噂」
「は!?」
俺は飲んでたジントニックを危うく吹き出すところだった。
「あ、それ俺も聞いたワ」
と隣の席に座った裕二はタバコをくゆらせながらのんびり言う。
「ま、俺は信じてないけど~。だって動きがあったらお前ぜってー俺に報告してくる筈だし?」
「何よ報告って」
綾子が眉をしかめる。
「あー……こいつと今賭けしてんだワ。どっちが先に柏木さんを堕とすかって賭け」
「何それ」
綾子は眉間に深く皺を刻むと俺たちを交互に睨んだ。
「すっごい面白そう!」
だよな。
こいつはこう言う女だ。
だから俺も気軽に賭けの話をしたわけだけど。
「しっかし柏木さんはちょっと難しいわよ~。入社して三週間弱経つけど、今までフられた男がわんさか。
まずうちの課の田中くんでしょ~。それから広報の新見主任。それから人事の……」
綾子が並べた男の数は五人。
ってかそんなにいるのかよ!!