Fahrenheit -華氏-
「でも啓人と裕二。いい男に二人も口説かれて、柏木さんもいいわね~」
「なん…お前、俺らに口説かれたいわけ?」
俺は聞いてみた。
「まっさか」
はっと綾子は笑い飛ばすと、
「会長と常務に口説かれたらそりゃすっごく悩むけど~」
とうっとりした表情で綾子は手を組んだ。
忘れてた…こいつはジジ専だったことを。
「ね、啓人。新しいお母さんいらない?」
俺の肩を叩いて、綾子は自分を指差す。
「いるか!お前が母親になったら俺は親父と縁をぶった切る」
「ま~恥ずかしがっちゃって♪」
隣で裕二がゲラゲラ笑っていた。
ムカついたから、裕二のわき腹に鉄拳をお見舞いしてやる。
「まぁ柏木さんは確かにもてるけど、女には不評よぅ」
綾子はカクテルのグラスをテーブルに置くと、ちょっと思案顔で目を伏せた。
「不評って?」
「ん~。冷たいとかキツイとか、怖いとか。同性には厳しい人なのかしら?」
「はぁ!冷たいだぁ!!?そんなん俺もしょっちゅう怒られてるっての!」
俺は思わず声を荒げていた。