Fahrenheit -華氏-
「冷たいのは女だけじゃねぇよ」
俺は最後に言うと、ぐいとジントニックを飲み干した。
「おにーさん、次マルガリータ」
カウンターの向こうにいる若いバーテンにムスッとして注文する。
「ど、どうしたのよ」
綾子が怪訝そうに俺を覗き込んだ。
「柏木さんは確かに厳しい人だよ。俺や佐々木だってしょっちゅうしかられてるし。でもあの人の言うことは全て正当で間違ったことを言っていない。
やみくもに嫌味を言ってるわけじゃない」
俺の答えに綾子と裕二が顔を見合わせた。
俺の前で二人の視線がぶつかる。
「お前……もしかして…柏木さんにマジ…………?」
「…………は?」
裕二の問いかけに俺は間抜けな声で答えていた。