月影
そんなことを考えていると、向こうから一人の少女が駆け込んできた。

「もー!」

少女はブルブルと頭を振ると、鞄からタオルを取り出して、自分の頭を軽くぬぐっていた。


幸姫…


どこか懐かしい感じがした。
当然、この時代に、もう、彼女がいないことくらいわかっている。
なのになぜか、この少女の横顔が、彼女を思い出させた。

「天気予報、雨降るなんて言ってなかったのに、急に降ってきたら困りますよね?」

ふと、彼女が口を開いた。
小太郎が驚いた顔をすると、彼女は小太郎の方を見た。

「今日に限って傘は忘れるし、迎えに来るって言ってた兄も仕事でこれなくなっちゃうし。ついてないや」

苦笑する彼女を見て、小太郎ははっと我に返った。

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