月影
「あ、ちょっと!」

顔をあげて怜の方を見る。眉を顰め、迷惑ですオーラ全開の深幸をみて、怜は面白そうに笑う。

「高校生なんだー。ちゃんと勉強してて偉いねー」

怜の言葉に、深幸はむっとした表情を浮かべると、ひったくるようにして教科書を取り返した。

「うっさいな。邪魔しないで」

「でもさ、数学とか勉強したって、社会に出たらなんの意味もないよ?使うことないし」

笑いながら、少し馬鹿にしたように怜が言う。

「あんたが決めることじゃないと思うけど」

確かに、理数系の専門職に就きたいわけではない。
この先、正直、どこで使うのかと思うことだってある。


でも。


『知っているからこそ、それを使うことができる』


いつどこで使うかなんてわからないけれど、知らなければまず使えない。
なら、知っておいた方がお得じゃない。

幼い頃、松子に言われた言葉を思い出した。
< 45 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop