月影
「ねぇ、向こうでの幸姫のこと、教えてくれない?」

ビールがなくなったので、置いてあった焼酎と氷を入れたグラスを二つ、玲子は持ってきた。それを小太郎に渡しながら、不意に、玲子が言う。
小太郎は小さく頷き、幸姫と出会ってからの事を、ポツポツと話した。

自分を助け、匿ってくれたこと。
一緒に畑仕事をしたこと。
いつも自分を助けてくれたこと。

記憶にあるそれらは、今でも鮮明に思い出すことができた。色も、音も、匂いも。まるであの時代にいるかのように。
今でも時々、彼女がそばにいるようで、呼べば、あの声で、コタ、と自分の名を呼ぶ声がする気がして、小太郎は少し、目頭が熱くなるのを感じた。


< 81 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop