月影
「小太郎?」

玲子の声に、ハッと我に返る。
少しだけ、申し訳なさそうな顔をした玲子がそこにはいた。

「…すまない」

思わず口をついて出てきたのは謝罪の言葉だった。

「ううん…私の方こそ、辛いことを聞いてごめんね」

謝る玲子に、小太郎は顔を少し、俯けた。

「でも、ありがとう」

玲子の言葉に、小太郎は顔を上げる。
なぜ、礼を言われるのか、わからなかったからだ。

「小太郎のおかげで、あの子がどう過ごしてたのかが分かったから。それに…」

「それに?」

「小太郎が、あの子のことを大切に思ってくれているのが分かったから」

そう言って微笑む玲子の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
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