月影
「あの子は帰ってこれなかったけど。私は神様に感謝しているの」

玲子の言葉の意味がわからず、小太郎は首を傾げた。

「あの子が幸せだって事がわかったから。あの子が無事に、生きていたことを聞くことができたから。あなたのように、あの子のことを、大切に思ってくれる人がいることを、知ることができたから」

そう言って、彼女は笑った。

「一緒に過ごしたあなたから、直接聞くことができただけでも、私は幸せ者だわ」

その言葉に、何も答えることができなかった。
だが、じっと自分を見つめてくる彼女の瞳は、彼女のその言葉が真実であると、心の底から、そう思っているのだと、自分に教えてくれた。

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