猫の手も借りたい
一枚目
武志少年が10才、勇が28才の時のことです。勇はいわゆる成金でした。金は腐るほど持っていました。そんなある夏の日のことです。
「武志、大阪に行くぞ。朋子は残っていてくれ。」
真田家族は東京で暮らしていた。本社も東京にありました。勇の一言に妻の朋子と、近くで本を読んでいた長女の正美は驚きました。
「どうしたのです、急に。」
「大阪の子会社の視察だ。一年ほど向こうで暮らす。」
「あなたが出ていかれたら、本社はどうなるのです?」
「副社長に任せた、お前にも頼む。」
「まぁまぁ、よろしいのですか?」
「あぁ、私が見立てた女だ。」
反対する者はいません。勇がどういった気持ちで武志も連れて行こうと決めたのか、今となっては分かりません。朋子は優しく微笑み
「貴方のそうゆう所が周りから馬鹿にされるんですよ。私はそこが好きなのですけどね。」
と照れながら言いました。