顔のない天使
泣き顔の天使
『ギルっ、ギル…』
ルイは湖に来ていた。
『私の名前を呼んで』
湖の揺れる水面。
『ギル…私に名前をくれたあの時みたいに名前を呼んで…』
湖は今日も、青く光っている。
『嘘だと言って…お願いだから…』
木々が優しく揺れた。
『私をひとりにしないで…
置いていかないで…』
小鳥達が集まった。
『ギル…ギル…』
花々が咲き乱れる。
集まった小鳥達が、
翼に変わる。
湖を覗きこむと、
ギルが笑っていた。
ルイの背中には翼があった。
『ギル、そこにいたのね…』
泣き顔の天使はゆっくりと湖にはいる。
腕を広げて待つ愛しい人の
腕の中にはいるように。
『ギル、…なまえをよんで』
‐ルイ…
ルイは満足そうに微笑むと
湖の中に消えた。
翌日、ルイも遺体で見つかった。
湖の水面で無数の花々に囲まれて。
ルイのその顔は、幸せに満ちて、
天使のようなほほえみを浮かべていた。
住人達は、ギルとルイの像を作った。
綺麗な翼の生えた、天使のような、
美しい、ルイを。
その天使を受け止めるように手を広げるギルを。
年月は過ぎ、
街では、こんな噂が流れるようになった。
『湖には天使が現れる』
と。
‐今もなお美しく、
いつまでも優雅に微笑んでいる‐
お話はおしまいおしまい、
ボクは誰だって?
ただの絵本売りさ。