顔のない天使
"なんで…"
喋ると湖に映る口が動いた。
顔、…私に、顔がある。
風がふわりとふいた。
私の髪の毛もふわりとゆれる。
栗色の瞳は笑った。
「ね、やっぱり綺麗だ」
湖に映る私の顔は、
黒い瞳、黒い髪の毛、
栗色の瞳の、顔があるものと色は違うが同じだった。
『私、顔がある』
「…顔がなかったら喋れないよ」
…え?
「あ。忘れてた」
栗色の瞳が真っ直ぐ見つめて
私の髪の毛を少しいじり
もう一度湖を覗くように言った。
綺麗な花が、私の髪の毛について、
さっきより顔がよく見える。
『これは…』
「髪飾りだよ、綺麗でしょ。
俺の名前はギル」
君の名前は?
そう聞かれたときまで不自然に思わなかった事が不自然に思えた。
なまえ?