ひねくれ双子の険しい恋路
「ん、行こ」
『あ、うん』
あたしはただボーっと突っ立っていただけだった。
そして、戻ってきた梨沙に言われてそのまま歩き出した。
梨沙とあたしは黒髪メガネさんの横を通り過ぎた。
「あ、あの、ありがとう!!」
ふと、後ろから声が聞こえた。
たぶん…っていうか絶対黒髪メガネさんの声。
「どーも」
梨沙は聞こえるか分からないような声でボソッと言った。
あたしはチラッと後ろを見てみた。
黒髪メガネさんはペコっと頭を下げてた。
どれだけ真面目なんだ、あの人。
それで、助けたのは梨沙なんだから、「どーも」ではないんじゃないの?
って言おうとしてたんだけど、梨沙の顔を見て止めた。
梨沙はむすっとしてた。
でも、ちょっと嬉しそうだよ。
その顔、照れくさかった時に梨沙がいつもする顔。
あの人、梨沙の声聞こえたかな。
「どーも」って少し意味のわからない、照れた梨沙の声が。
きっと聞こえてたよね。
――聞こえてたら、いいな。
つん。
あたしは梨沙を肘でつついた。
「なに」
『なんでもなーい』