【短編】10年越しのバレンタイン
重なる面影
「え?」
思わず口からもれた言葉に、私は驚きではっとした。
男性が、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「あ、何でもないです。これ良かったら!」
私は間髪入れず、ごまかす様にブラウニーを差し出した。
「いいの?ありがとう!」
男性は嬉しそうな笑顔を浮かべると、ブラウニーを一つ取り出して食べる。
「やっぱり、甘いものはいいなぁ。元気出る」
彼はしみじみとそう言った。
私はじゃあもう一つと、男性にすすめる。
「お疲れみたいですもんね」
「ずーっと仕事が立て込んでてね。やっと終わったんだけど、忙しすぎてバレンタインにチョコもらう相手もいなくて。今のが今年初チョコ」
「あはは」
「今も営業の外回り中なんだけど、疲れたからとりあえず座りたくて」
そっか。
それで私の荷物にも気付かなかったんだ。