【短編】10年越しのバレンタイン
「あの、私がその女の子だって言ったら……どうします?」
私は思い切ってそう聞く事にした。
「―――えっ」
男性―――お兄さんは、驚きを隠しきれない様子でまじまじと私を見た。
「ウソ……じゃ、ないよね?ホントに?」
お兄さんの気持ちは分かる。
突然そんな事言われても信じられないと思う。
「生物のメガネ先生。カエルが嫌いでしたよね?」
私は信じてもらう為に、あの日お兄さんから聞いた話を思い返す。
「う、うん」
「体育祭の日、風が強くて教頭先生のカツラが飛びそうだったって」
「確かに……言ったかも」
「担任の先生は、夫婦ゲンカの翌日はお弁当が白米と梅干しだけだとか」
「うわ、その話したした!」
話す内に、お兄さんの目から疑いの色が消えて行く。
「うん……。そっか、10年だもんな。大人になるわけだ」
お兄さんは昔と同じ笑顔で笑うと、まるで親戚のオジサンの様な事を言った。