【短編】10年越しのバレンタイン
あの日からまた1年
そして1年後。
バレンタインのこの日、私はまたこの公園に来ていた。
手作りのチョコを持って。
綺麗にラッピングした箱の中には、ただチョコを溶かして固めただけの物。
いくらお兄さんのリクエストとはいえ、これでは腕の奮い甲斐もないというものだ。
「ホントにこれでいいのかな?」
私はベンチで1人、渡す予定の箱を見つめながら呟いた。
「いいの、いいの」
いつの間にやって来たのか、スーツ姿のお兄さんがそう言って笑ってみせる。
「お兄さん!」
驚いた私が箱を落としそうになると、お兄さんの大きな手がそれを押さえた。
「明日奈はまだ『お兄さん』が抜けないのか」
お兄さん―――弘樹さんは呆れた様に笑う。
「だって、10年もお兄さんで慣れちゃってるから」
今、私は弘樹さんとお付き合いをしている。