【短編】10年越しのバレンタイン
あの日、弘樹さんはベンチに座り直した私に自分の率直な気持ちを話してくれた。
「正直言うと、驚いてるよ。10年間も、毎年キミがここに来ていたなんて信じられない気持ちの方が大きい」
私は小さく頷く。
「でも、キミの気持ちは嬉しい。誰かにそんなにも想ってもらえるなんてなかなか無いよ」
そうなのかな?
諦めが悪いって親友にはよく言われたけど。
「でも、俺もキミもお互いを知らなさ過ぎる。俺としてはもう少しキミを知りたいんだけど、どう?」
私は慌てて、ブンブンと頭を上下に振った。
「私も知りたいです、お兄さんの事!」
そう言った途端、弘樹さんは大きく息を吐き出す。
「それだよ、『お兄さん』」
「え?」
「お互いに、せめて名前は知りたいよね」