こんぺいとう【短編集】
「こんな幸せが当たり前になっていいのかなって、思って……」
「それで家出ってわけ」
悲鳴を上げるやかんを火から外して、完全に俯いてコクコクと頷いている彼女に笑った。
頭にあったはずのタオルは首までずれていて、ふわふわのパーマが掛かった栗色の髪が揺れる。
「よかったー」
俺の声にビクリと身体を跳ねさせて、恐る恐る顔を上げる。
……あー、だからその上目遣い。
沙希の細い髪をくしゃくしゃ混ぜてやると、首を縮めて擽(くすぐ)ったそうに目を閉じる。
本当に猫みたいな彼女。