SugarⅡ
渡り廊下は移動教室から帰ってきている人で混雑している。その中で、必死に人混みをかき分けている女の子を見つけた。
手には、俺がどこかで落とした飴。どうやら、拾ってくれたみたいだ。
「あの、さっき飴落としましたよ。これ、あなたの飴ですよね?」
少しだけ逆に歩けば、すぐにその子に近づけた。急いできたみたいで、息切れはしていたけど、ずっと笑顔のまま。
「うん、俺の飴。サンキュー」
差し出したその子の手に乗っていた飴を受け取る。すると、また、嬉しそうに笑った。
「どういたしましてっ。あ、あたしもう行きますね、次体育なんで、着替えなきゃ間に合わない…」
――――――キーンコーンカーンコーン…
その子が言い終えたのと同時に、チャイムが学校中に鳴り響く。授業の始まりを告げるチャイムだ。
「鳴っちゃったっ」
焦ったように走り出すその子のポケットから"カシャン"と音を立てて落ちたリップ。
余程焦っていたんだろう。落としたことにも気がつかない。
それを拾い上げて、チラッと前を見てみるけれど、そこにあの子はもういない。
「何組だ?」
名前も、学年も、クラスも知らない。どうやって返そうか、このリップ。