SugarⅡ
体温で少し温まった雨と、あの子がさっき落としていったリップを握りしめ、歩き出す。
俺も遅刻だった。
どうやって返そうか……ってのは、何となく、考えなくてもいいんじゃないか。また、あの子に会えるような気がしたから。
ふと、リップを握りしめていた手を開く。長細いリップの下の方に小さく"miu"と書いてあった。
「み、う………みうちゃんか…」
唯一分かったのは、"みう"という名前だけ。漢字すらも分からない。
次あったときは、学年も、クラスも、名前も、全部聞こう。アドレスも、電話番号も。
あまり他人に興味がないこの俺が、あの子に興味を持った。
我ながら…珍しい。
「はは……っ」
小さく笑みをこぼして、教室へと走り出す。久しぶりに夢中になれそうなもの……いや、人を見つけた。
ポケットの中
いつも入っているはずの飴が
今日は入ってない。
いつ落としたんだ?
(あ、飴の…)
(有明涼。君の名前は?)
(姫仲、美海です…)
(よろしく、姫仲サン)
リップを返したときに触れた指先が熱を持って、2人の頬が微かに赤く染まった。
-END-