悪魔的ドクター
「それと、速水さんが見た傷の事なんですが…」


「…はい」


「それは、柚花自身が付けた傷です」


「…え?」


「自分の部屋で傷付けていたのを見ていましたから」



あまりに母親の冷静な口調に
俺は言葉を失った。


"自傷行為"
その言葉が頭を過る。



「…迷惑よね」


「そんな事、言ってはいけないですッ」



実の母親なのに
言ってはいけないその言葉に
俺は思わず声を張ってしまった。


だが母親の表情は変わらない。



「…見て見ぬフリをしていたんですか?」



家族なのに…?



「そうね。何も言わなかったわ。"わざと"している行為なんて、何も言いたくないもの」


「…わざと?」


「同情してもらいたかったんじゃないのかしらね…」


「同情…?」


「でもよくはわからないわ。なぜか傷付けるのは背中だけで、人に見える所には何もしてないですしね」



母親のその言葉に
俺があの傷を見た時に感じた
"1つの疑問"を思い出した。



【あるべき所に、ない"何か…"】


それは
背中にあった傷が
腕や足になかった事だった。




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