悪魔的ドクター
「守りたいんだ…」
すぐ後ろで
小さく先生の声が聞こえた。
「え?」
聞き間違えだろうか。
今…
『守りたい』って言った?
本当にそう言ったかは定かではないけど、振り返ると真剣な表情の先生と目が合った。
ずっと正面を向いていたのに
今は真っ直ぐあたしを見ている。
もしかして…
マジで言った…?
そう思ったら
なんか突然恥ずかしくなって
思わず顔を背けてしまった。
ヤバイ…
照れる。
不意打ちだ。
全然そんな事言うような人には思えないのに。
「いきなり悪い。そうは言っても咲桜ちゃんの気持ちもあるな」
「え…」
先生はあたしが戸惑っている事に気付いたらしい。
「落ち着いたら来て」
そう言って渡されたのは
住所が書かれたメモ。
たぶん先生の住所だと思う。
戸惑いつつ受けとって
車を降りた。
「じゃあ…また」
「…はい」
まるで恋人同士の暫しのお別れの様な挨拶を交わし、あたしはその場で、先生が見えなくなるまで車を目で追っていた。
こんな事ってあるんだろうか…
1人の患者が
医者の車で送り迎えしてもらい
しかも家に誘われ
住所を教えてもらうなんて…
本当にいいのか?