悪魔的ドクター

「いない」



聴診器で胸の音を聴いたあと
先生に背中を向けまま服を直していたあたしの後ろから、小さな呟きが聞こえてきた。


今確かに
『いない』って聞こえた。

それってつまり…



「彼女いないって事ですか?」



丸椅子をクルッとまわし
また先生と向かい合わせになって聞き返した。



「いない。何度も言わせるな」



カルテに何かを書きながら
先生は無表情で答えた。


先程まで触れる事すら許されなかった話題に、先生が答えたよ。


いや、まぁとにかく助かった



「良かった…」



『これで部屋の出入りは大丈夫』とホッとした。



「何が良かったって?もしかして俺の事好きにでもなった?」



え、なんだって?
何がどうなって、そうなる?



「咲桜ちゃんが俺の事をねぇ〜」


「違います!!もし先生に彼女いたら、家に住めないからッ!!」


「オイッ!バカヤロ、声がでかいッ」



先生は小声で少し怒り気味に
自分の人差し指を口に当て
『しーッ』と口止め。




あ。興奮して思わず声が大きくなってしまった。







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