オアシス
私は決死の思いで聞いた


「中野……俺、吉祥寺まで行くから一緒に行きますか?」

「お願いします、ありがとうございます」


私は懇願するように、すがりつくように言った。

男に言われたとおりの切符を買い、一緒にホームに行く。


「どこから来たんですか?」

「…えっ?どこって……」

「東京の人間じゃないでしょ?」

「見て、わかるんですね」

「一瞬でわかります」


男は苦笑いした。

私は何だか恥ずかしくなって男から目をそらした。やがて電車は浜松町に滑り込み、私達は乗り込んだ。混み合っている車両の中で私は荷物を抱え立っていた。私達は何も喋らず、ただただ無言のまま並んで立っていた。

電車が揺れ、フラついた私の腕を掴んだ男の手を見た私に、男は小さく微笑んでいた。そして電車は新宿に到着し、男と一緒に降りた。新宿に来ると人の数が一気に増えた気がした。
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