オアシス
一言も言葉が出てこない。

「落ち着いた?」

「……え?」

「こうやったら、落ち着くかなって」

……。

返す言葉がなかった。

準平は私を抱き寄せたまま、動かない。それっきり何も喋らずにいた。私の心臓の爆音が準平の胸に伝わっていたに違いない。すごく恥ずかしかった。でも準平は、いちいちそんなことは指摘してこない。わかっていても、あえて黙っている。準平の腕の中はとても優しくて、柔らかくて、すごく落ち着く。人の声も車の音も聞こえないこの場所で、海の波の音だけが一定のリズムで繰り返されている。

「ごめんな。こんなことして」

……。

「何か放っておけなくて。ごめん」

「何で謝るんですか?」

「え……?」

「謝らないで下さい」

そう言って私は準平の筋肉質の背中に両手をまわしTシャツの余っているところを手探りし、見つけてはギュッとつかんだ。ずっとこのままでいたいと思った瞬間に、準平が自分の胸から私を離した。

「戻ろうぜ」

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