オアシス


いつだったか、ライブが終わったあと楽屋で、はるかにひどいことを言われ帰り道の途中で並んでいた自転車を蹴り飛ばしたことがあった。その時準平が現れて自転車を元通りにするのを手伝ってくれたこともあった。

“私はあの時も準平のさりげない優しさを感じていたんだ”



「あーっ! 瞳~! 準平君も~!」

均衡を破るように菜々の甲高い声が聞こえた。私達はみんなの所に戻ってきていた。

「ちょっとどこ行ってたの? 何も言わないで急にいなくなるんだもん」

「ごめん」

「何か怪しいな……。二人で消えるなんて。クククッ……」

いっちーが気持ち悪い表情をしながら妙な探りを入れてこようとする。その時、私は左横の方から視線を感じた。

……。

聡が見ていた。寂しさと、怒りと、心配そうな感じが、いろんな感情が入り混じった表情をして私を見ていた。

私は、一瞬だけ聡のことを忘れていた。準平に夢中で、聡の存在が私の中から消えていた。でも、聡のあの顔を見た時に再び湧き上がるものが感じられた。
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