オアシス
人ゴミの中で私は、色々な人にぶつかり、そのたびに “すみません” と言っていた。私は男の姿を見失わないように必死だった。ここで、はぐれたら大変なことになる。しかし男は歩くのが尋常じゃないくらい早く、うまい具合に人の流れに逆らって縫うように進む。

必死で着いていく私に、悲劇は起きた。

手に持っていた携帯を、人にぶつかった時に落としてしまった。慌てて拾う。


その瞬間ーー


私は、急に胸の鼓動が早くなるのを感じた。

それは、本当に一瞬だった。

私は、

男を、見失った。

私は瞬きをするのもわすれ、必死で男をさがす。

“どうしよう……どうしよう……”

焦って焦って仕方ない。まわりを見渡すが見つからない。人が多いから、なおさら見つけづらかった。目がおかしくなりそうだった。流れゆく人の波に頭がクラクラする。喉が渇く。

正直、私にはもう限界がきていた。そしてついに力尽きた。
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