オアシス
私はグラスの汗を指で拭いながら、どこかわからない “どこか” を見ていた。

父親の反対を押し切って上京を決めた日……

それを静かに見守り最後まで心配してくれた母親。

上京二日目に渋谷で飲んだアイスココア……

世の中そんなにあまくない……理想と現実を思い知らされた自分。今さら地元へ引きかえしたくないという変なプライド。私の頭の中で、色々なことが渦巻く。



バンッ!



私は思いきり立ち上がり喫茶店を飛び出した。女性の姿をさがす。

駅前の広い交差点を……

目を凝らしながらさがす。

さがす……



…………!!!!



女性を見つけた。信号待ちをしている。


「あの! すみません!」


叫ぶ私に、女性は振り向いた。


「お願いします!」


女性はキョトンとしている。


「働かせてください! お願いします!」


私は地面に頭がつきそうなくらい深く頭を下げた。
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