オアシス


何か言わなきゃ……。

「ライブ、良かったです。すごく、楽しかったです」

なるべく明るく言ったつもりだった。

だが、まわりは黙っている。なぜかしらシラケてしまっていた。

「ありがとう。楽しめたみたいで、良かった」

準平は言った。

すごく、優しい目をしていた。

「おいおい、なんだよ。ヒューヒューじゃねぇかよ」

「どこがヒューヒューなんだよ。バカ!」

英明が突っ込む。

ずっと堅苦しく縛られていたものが、準平の言葉、準平の表情で解き放たれたような気がした。

それからの私達五人は、しばらく居酒屋で騒いだ。緊張とか、少し人見知りもする私なのに気がつけばみんなと打ち解けていて笑っている時間も増えていた。

それでも楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、そろそろ御開きとなった頃、

「俺……吉祥寺まで行くから、一緒に行く?」



一瞬、



本当に一瞬だけ、



時がとまった。



帰ろうとした私の背中に準平のセリフが覆い被さった。
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