オアシス
私は、去っていく準平の姿を見送った。

ずーっと……。

その姿が見えなくなるまで、見送っていた。

「瞳? 帰らないの?」

菜々の言葉さえ聞き取れない。

「もう……。どうしちゃったの?」

「ごめん。何でもない。私、帰るわ。また、明日店でね……、じゃ……」



振り向くと、準平が立っていた。

聞き覚えのあるセリフに、私は胸の鼓動が早くなるのを感じた。

「私、引っ越ししたの。だから今は、中野じゃない……」

「そうなんだ。了解」

準平は、笑顔で言い踵を返す。

私は一人、駅へ向かって歩いていった。



………………



梅雨も中休み――

晴れた日の、土曜日の午後。久しぶりに現れた太陽の光のシャワーがアスファルトを照らす。

木造モルタル二階建てのオンボロアパートにも太陽の光が注がれている。二階へ上がる階段の手すりがギラギラと光っていて、素手で触るとすごく熱そうだ。



カツカツカツッ……



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