オアシス
はるかは、ゆっくり丁寧にコーヒーを煎れる聡を見ていた。肘をつき、その手のひらの上にアゴを乗せて聡を見つめていた。その真剣な、目を。

「はい。お待たせ」

はるかの目の前に、お洒落な陶器が置かれた。白い湯気がゆっくりとあがっていく。

「毎日暑いのに。こんな暑い日にホットコーヒーなんてね……」

はるかは立ち上る湯気を見つめながら呟いた。

「暑い日には、熱いものが合うよ」

「そう?」

「うん。そうだよ」

まだ開店したばかりのカフェは、客ははるか一人だった。はるかは聡の方を全然見ようともせず、コーヒーの湯気ばかりを見ている。何か、考え事でもしているかのように。

「聡って……」

……。

「優しいよね」

「急に、何?」

「何でもない! 今、ふとそう思っただけ」

「やっと俺の方見てくれた」

「え?」

「何か、ずっとどっかを見てたからさ。今日のはるかは何かへんだなって思ってた」

……。

「どうした?」

「何でもない。って言うか、聡がコーヒーを煎れてる時はずっと見てたんだよ」

わざと間をずらす。

聡は一瞬目が真剣になるが何も言わなかった。微かな笑顔ではるかを見ている。

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