オアシス
菜々は、両手で包み込むようにスープの容器を持ちながら、幸せそうな顔をした。私は、そんな菜々をじっと見ていた。意識して見るつもりはなくても、今日の私は何だかボーッとしていたくて、ゆったりとした空気が私の周りを流れていた。

「おいしい?」

「うん! おいし~い! やっぱここのスープは最高だなぁ~」

……。

菜々は、自分の方をじっと見ている私に、

「ねぇ、どうしたの?」

スープを両手で持ったまま、菜々は心配そうな顔をする。

「……うん」

「最近、店が暇だから稼ぎが心配?」

“違うよ。そんなふうに思える菜々は気楽でいいよね”

心の中で思ったことが顔に出たらしく、

「そんなわけないか……。もっと大事なことかな。稼ぎよりも、もっと大事なこと」

そう言って、両手で持ったままのスープを一気に飲みきった。

「ふぅ~……おいしかった」

……。

「じゃあ、私そろそろ戻るね」

「うん……」



バタン……



菜々は出ていった。
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