野球部のあなたとあたし
「恋……ですか?」

「恋です」


沙弥がはっきりと頷く。

沙弥がさっきの顔とは違って、すごく真面目な表情になっている。


「美那、恋したことないでしょ」

「ないよ」

「なら、恋する気持ちがわかるはずないよ」

「あたしが仮に恋をしたとするよ?でもさ、恋って、その人を見るだけで嬉しかったり、楽しかったりするもんでしょ?あたしはそんなの思わないなあ~」


夏川くんのことは、好きか嫌いかって聞かれたら、好きな方だと思う。


でも、異性としてどうかって聞かれたら、イマイチぴんとこない。


それに…あたしは夏川くんを見たって楽しくなるわけでも嬉しくなるわけでもない。


むしろ、なぜかイライラしてくるんだから……。


「恋なんて人それぞれだよ。好きな人をみるだけで周りと一緒にきゃーきゃーやってる人もいるし、こっそり見てる人もいる。顔真っ赤になったりする人もざら」

「…じゃあ、イライラするのは、恋ではないのでは……」

「イライラってよりは、もやもやしてんじゃないの?違う?」


沙弥ってすごい。正確に核心をついてくる。


「……うん」

「美那は答えが見つからなくてイライラしてるだけなんだよ。というか、わかってるんだけど、わからないふりをしてるんじゃない?いや違うな。心ではわかってるはず」

「わかってるふりなんて…してないよ」

「だから、頭でわかってないだけ。あ、そうだ」


沙弥がぱんと手を打った。


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