野球部のあなたとあたし
「なんなのあの男ーっ!」

「初対面だったんでしょ?いくらなんでもそれは酷いねえー」


沙弥が頷いてくれた。


あの後全力疾走で走ったから、なんとか遅刻にはならなかったけど。


さっきの男のことが頭にきて、叫ばずにはいられなかった。


ホームルームの前だからみんな騒がしくて、あたしが叫んでもお構いなし。


「しかも最後が『死んで男に転生しろ』だよ!!いくらあたしが声が低いからって、あれはない!!」


自分を可愛いと思ったことはない。


声は低い方だし、吊り目だし、背も高い方だから、顔だけ見たら男に間違えられても無理はないと思う。


でも、だからこそ髪は長く伸ばして今日みたいにたまに巻いたり、化粧はしないけどビューラーでまつげを上げたり、可愛く見えるように努力はしてるつもり。


だから、さっきの殺し文句は正直傷ついた。


「ねえ沙弥、知らない!?坊主で背高い男子!」


も一回会って言い返してやらないと気が済まない!


「坊主でしょ?野球部の誰かじゃない?」

「野球部で背が高い人……」

「野球部に背が高い人なんか、いくらでもいるんじゃない?」

「だよね…」


あたしも知っている限りでは、野球部の人って、背が高いか背が低いかのどっちかしかいない。


極端なんだよね……。


これじゃあ、探しても見つからないじゃない……。

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