ハカナキカヲリサクハナノヨウニ
あれから、もぬけの殻で過ごした日々。
社会にもまれた、というより、
もみくちゃにされて放り出された、
虚無に等しい一日を何度となく繰り返し、
縋りたくなる過去は、
嫌らしいくらい時が止まっていて、
僕はなにひとつ手に付かないでいる。

仕事も、社会に溶け込むことも。



3年経った今、仕事は転々のあげくにプー。実家住まいも、居間の風景はすっかり忘れた。
親がなにも言わなくなって随分経つ。
最初のバイトのときか、
大学受験も全滅し、
予備校に入ることを拒んだ僕は、
初めて親父をなぐった。

「いつまでもそんな生活が許されると思うな!」
「…」
「どうした?当たり前のことだろう!ただでうちにいられるほど、甘くないんだよ、世の中は」
「…わかるかよ」
「…なに」
「これからの自分が見えてこないのに、世の中の事なんか見ていられるかっ!」

言うや否やのことだった。
右ストレートが親父の頬にめり込まれてた。
親父はその場に倒れ、しばらく呆然としていた。
僕は不思議な気分だった。
その時はそれが無駄なこととは思わず、
大きな山を乗り越えた気分に酔い、
勘違いをした。

母さんはこんな風に僕がなってから、
世間にならって、
まるでいないもののように、
僕を扱った。
僕は最初清々としていたけれど、
あれだけの時間で静寂が流れると、
空しさを覚えてくる。

止まったままの時間は、
いまだ動き出さない。
世の中はまた目まぐるしく動いたけれど、
僕は一切立ち止まったままだった。

今日もまた終わる。灰色の空のまま。
僕はリサイクルショップで時間を潰していた。
ふと楽器コーナーに立ち寄ると、
いかにも高価なレスポールやテレキャスたちが、
どこの素性も知れないバッタモンと共に並べられていた。
良き出会い、酔いしれた日々を経て、揚句、
使い物にならなくなれば、誰のあてもなくまた良かったあの頃を待ち続ける。
悲しいけれど、現実はこういうことだ。
救われる日を待つより、
――いいかげん動き出せ。
無言の声が痛く感じたときだった。
見慣れた気配を片隅より感じたのは。
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