海の見える城
その後、レティシアは元いた部屋に戻り休んでいるとドアがノックされた。
「…どうぞ。」
声を掛けるとドアが開かれ、そこにはいつもの無表情な侍女ではなく、まだ自分より若い少女が現れた。
「?あなたは…」
見たことのない少女にレティシアは首を傾げると、
「あ、あのっ!今日から姫様のお世話をさせてい頂くリーナです!」
緊張したような口調でそう言ったリーナは、バッと頭を下げた。
どうやら侍女になりたての子のようで、何だか頼りなさそうにも見えた。
それでもレティシアは、構わずリーナに微笑んだ。
「そう…ありがとう。よろしくね、リーナ。」
「は、はい!」
リーナは嬉しそうに笑った。
「あ…それと…。姫様なんて呼ばないで…。レティシアでいいわ。」
レティシアは自国にいた時も周りの人たちには自分のことを名前で呼ばせていた。
少しでも親近感を持てればと考えだったし、その方がレティシアも気が楽だった。
「あ、はい…ではレティシア様で。…早速なのですが、明日の衣装の準備をしましょう。」
「そう…ね。」
明日のことを考えるだけで憂鬱だ。
只さえこの国の男の妻になるのさえ嫌なのに、敵国の民に自分の姿を晒すのはさらに辛い。
話だと、式と言ってもただ国民に数分姿を見せるだけらしいが、それでも出たくないものは出たくない。
…これから始まる新たな生活に光なんてない。
暗い未来しか考えられない。
レティシアはリーナに気づかれないような小さな溜め息をついた。