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隣の席なのに。
「ねえってば!ねえ!」
『…………』
「もうっ!」
『……………』
「起きろ!――もうっ」
彼がなかなか起きない。
昨日よりも、起きるまでの時間が長い。
男のくせに、彼はまつげがふさふさで。
真っ白な肌に、真っ赤な唇。
あの顔に、あの腕に、触れたい。
―――もっと近くで。
私はずっと、その衝動を抑えている。
「朝香。」
『あっ礼くん。どうしたの?』
「ああ、朝香がぼーっとしてたから。何見てたの?」
『ふふ、……秘密。』
「んー?あっ峰沢か。あいつらいっつもあんなんだよな。」
『……だね。』
「岸もなー。峰沢にかまってほしいからだよな、あれ。」
岸もさっさと起きればいいのに――
そう言った礼を少しだけ憎いと思った。