STORIES
隣の席なのに。



「ねえってば!ねえ!」

『…………』

「もうっ!」

『……………』

「起きろ!――もうっ」



彼がなかなか起きない。
昨日よりも、起きるまでの時間が長い。



男のくせに、彼はまつげがふさふさで。

真っ白な肌に、真っ赤な唇。

あの顔に、あの腕に、触れたい。



―――もっと近くで。


私はずっと、その衝動を抑えている。




「朝香。」

『あっ礼くん。どうしたの?』

「ああ、朝香がぼーっとしてたから。何見てたの?」

『ふふ、……秘密。』

「んー?あっ峰沢か。あいつらいっつもあんなんだよな。」

『……だね。』


「岸もなー。峰沢にかまってほしいからだよな、あれ。」


岸もさっさと起きればいいのに――


そう言った礼を少しだけ憎いと思った。

< 1 / 24 >

この作品をシェア

pagetop