いいから私の婿になれ
ずざざざざっ!と。

黎児は部屋の端まで、アメリカザリガニばりに後ずさった。

「い、いやっ、いいよエリアル、遠慮しておく」

「…何故ですか?そのように遠慮なさらなくとも…」

困惑の表情で、エリアルが黎児を見つめる。

「だ、だって、風呂だぞ?俺裸だぞ?」

「ええ、存じ上げております」

「そ、そのっ…」

口ごもる黎児。

「え、エリアルも裸になるんだろ?」

「…ええ…勿論でございます」

頬を紅潮させ、薄く笑ったエリアルは妖艶にさえ見えた。

「後程夜伽の相手も致しますのに、入浴くらいで恥じらっていては務まりません」

可憐なイメージから一転、こんな話をするエリアルは、若い生娘の生き血を啜る吸血鬼のように見える。

ギュピーン!と。

効果音付きで彼女の両眼が輝いたような気がした。

「いやっ!いいっ!いいっ!」

黎児はダッシュでバスルームに駆け込むと、ソッコーで鍵をかける。

「ご主人様?」

「背中も夜伽もいい!これ、ご主人様命令!」

昔から『据え膳食わぬは男の恥』という。

しかしその膳を据えられた事がない経験値の低い黎児は、夢のようなシチュエーションを棒に振ってしまうほどのヘタレだった。

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