いいから私の婿になれ
黎児が強張った表情で、目の前のメイドを見た。

控えめで、時に強引で、それでも黎児の事を第一に考えて行動していたエリアル。

今の彼女に、その面影はないように思える。

容赦なく殺傷能力を持つ魔法を行使し、命さえ脅かす。

魔法を行使するなという黎児の命令すら無視し、次々と術を繰り出してくる。

…しかし、その行為とは裏腹に彼女の本質は何も変わっていなかった。

「もう…どうして邪魔なさいますの、ご主人様」

次は拳大の火球を右掌に発生させるエリアル。

「ご主人様に身を呈して守られて、か弱い乙女のふりをして悲劇のヒロイン気取りですか…妬ましいですわ、嫉妬してしまいますわ、雌豚の分際で!」

エリアルの感情を表すかのように、猛々しく炎が燃え上がる。

その赤い光に照らされて。

「…お前なんて死ねばいいのに…」

光のない瞳で見つめながら、エリアルは恍惚とした表情で呟いた。

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