いいから私の婿になれ
そして、その場にはエリアルと黎児だけとなった。

真琴が逃げるのも気に留めず、エリアルは己の腰にしがみつく主を見下ろす。

…光のなかったその瞳が、僅かばかりの潤みを帯びたのは気のせいか。

「ご主人様…それが私を制する為ではなく、純粋に抱擁だったらどれだけ嬉しかった事か…ご主人様がその腕で抱いて下さったならば、私は蕩けるほどに嬉しかったでしょうに…」

「エリアル…」

黎児は彼女の細い腰に腕を回したまま呟く。

「ごめんな、俺が優柔不断で、度胸がないばかりに…もしエリアルがこれからも望んでくれるなら、いつでもこうしてやるから…こんな事でいいなら、幾らでもしてやるから…」

「ご、ご主人様…」

戦斧を握り締めるエリアルの手が、微かに緩む。

だが。

「だから…頼むから真琴の事は…」

その女の名が出た瞬間。

「うわあっ!」

エリアルはその膂力で黎児を振り解いた!

< 86 / 101 >

この作品をシェア

pagetop