金の音の魔法 *5page*
褪せない色で染めて
「‥っく、」
雲が淡く茜に染まり、ひとひらの花が零れゆく。風は春を運んで柔らかに包み、開け放たれた窓からは、校庭に残る生徒たちの声がやけに響いた。
そう‥あの日も同じだったんだ。
がらんどうになった教室。綺麗になった黒板を眺めながら、何を考える訳でもなく‥ただボーッとしてた。
風が髪を撫で、それが煩わしくなって指でよける。それが何度も続いたから、私はついに立ち上がった。
アルミの窓枠に手をかければ、少し冷たい感触が気持ち良い。
「はぁ‥」
そんな短いため息をつきながら、カラカラと窓を閉めていく。‥その時ふと、聞こえてきた音。
「なに?」
もう一度窓を開いて耳を澄ます。
「バイオリン‥」
微かな旋律は途切れ途切れで。でも、夕陽に溶け込むような優しいその音色は、空っぽだった心にスルリと沁み渡ってゆく。
私はその音が鳴り終わるまでずっと、茜が藍に飲み込まれるまでずっと……窓枠に肘を置きながら、聞いていたんだ。
次の日も、その次の日も、その音は聞こえてきた。
「誰が弾いてるんだろう」
週末の休みの日でさえ、耳から離れることがなかった。気になって気になって、眠るどころじゃなくて。
「月曜日‥」
また聞こえたら、音を辿ってみよう。そう思ったら、なんかお腹がキュッてなって、ますます眠れなかった。
小鳥が鳴き、穏やかな日射しで目覚まし時計よりも早く起きる。
「行ってきます」
そう言ったって、返ってはこないのに。
「はぁ‥」
その日の授業なんか耳を素通りだった。存在感さえない私は当てられることもなくて。退屈な頭に廻るのは、あの音だけ。
いつの間にか担任が今日を締め、パラパラとみんなが教室を出て行く。
また私は、何を考える訳でもなく、ただボーッと座ってたんだ。
「あ‥」
そしてまた聞こえてきたこの音。今日こそは‥と、席を立つ。
この音は上から聞こえる。廊下に出てしまえば耳に届かないその音。幸い、上にあるフロアは1段だけだから、端から覗いていったけど……
「居ないや」
もしかして、この上?
そう思った私は、立ち入りを禁止されているはずの階段を上った。重苦しい灰色の鉄のドア。少し押すと‥
「開いた‥」
そして、吹き込む風と共に流れてきた旋律。
「あ、」
--‥見つけた。
雲が淡く茜に染まり、ひとひらの花が零れゆく。風は春を運んで柔らかに包み、開け放たれた窓からは、校庭に残る生徒たちの声がやけに響いた。
そう‥あの日も同じだったんだ。
がらんどうになった教室。綺麗になった黒板を眺めながら、何を考える訳でもなく‥ただボーッとしてた。
風が髪を撫で、それが煩わしくなって指でよける。それが何度も続いたから、私はついに立ち上がった。
アルミの窓枠に手をかければ、少し冷たい感触が気持ち良い。
「はぁ‥」
そんな短いため息をつきながら、カラカラと窓を閉めていく。‥その時ふと、聞こえてきた音。
「なに?」
もう一度窓を開いて耳を澄ます。
「バイオリン‥」
微かな旋律は途切れ途切れで。でも、夕陽に溶け込むような優しいその音色は、空っぽだった心にスルリと沁み渡ってゆく。
私はその音が鳴り終わるまでずっと、茜が藍に飲み込まれるまでずっと……窓枠に肘を置きながら、聞いていたんだ。
次の日も、その次の日も、その音は聞こえてきた。
「誰が弾いてるんだろう」
週末の休みの日でさえ、耳から離れることがなかった。気になって気になって、眠るどころじゃなくて。
「月曜日‥」
また聞こえたら、音を辿ってみよう。そう思ったら、なんかお腹がキュッてなって、ますます眠れなかった。
小鳥が鳴き、穏やかな日射しで目覚まし時計よりも早く起きる。
「行ってきます」
そう言ったって、返ってはこないのに。
「はぁ‥」
その日の授業なんか耳を素通りだった。存在感さえない私は当てられることもなくて。退屈な頭に廻るのは、あの音だけ。
いつの間にか担任が今日を締め、パラパラとみんなが教室を出て行く。
また私は、何を考える訳でもなく、ただボーッと座ってたんだ。
「あ‥」
そしてまた聞こえてきたこの音。今日こそは‥と、席を立つ。
この音は上から聞こえる。廊下に出てしまえば耳に届かないその音。幸い、上にあるフロアは1段だけだから、端から覗いていったけど……
「居ないや」
もしかして、この上?
そう思った私は、立ち入りを禁止されているはずの階段を上った。重苦しい灰色の鉄のドア。少し押すと‥
「開いた‥」
そして、吹き込む風と共に流れてきた旋律。
「あ、」
--‥見つけた。